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20040205
●MSCB●
moving strike convertible bond
一般に「転換価額下方修正条項付転換社債」
現時点での当会の定義では、
上場企業の発行する「転換価額修正条項付私募転換社債型新株予約権付社債」
を指す。
このCBの典型的な商品設計は
@資金繰りに詰まった日本の上場企業が海外のペーパーカンパニー(要は匿名の投資家)に
対して割り当てる(私募)
A転換価額が時価より低い(普通のCBなら時価より3〜30%高くするのが普通)
B転換価額より株価が安くなると、転換価額が自動的にその株価とほぼ同じ価格まで下がる
(転換価額修正条項)
C金利はつかない
である。
●元々の「転換価額下方修正条項付転換社債」●
が日本でポツポツ発行されはじめたのは、バブル崩壊後の90年代前半であったと記憶して
いる。当時はバブル期の怒濤のエクイティファイナンス後の株価崩壊で株価が転換価額の 数分の一になってしまった大企業のCBが額面を大きく割った価格で市場に放置されていた。
そんな状況でCBを発行するために、
「発行後1〜2年ぐらいして株価が下落していたら、転換価額を最大(約)2割引しまちゅ。」
というようなサービス条項を付けたCBが「転換価額下方修正条項付転換社債」であった。
発行会社はまともな上場企業であり、発行形式は国内or海外公募であったし、もちろん転換 価額は市場価格より数%高かった。
それとは違って、MSCBは、
「転換価額下方修正条項付転換社債」のシステムを悪用した劣悪な商品
である。
●MSCBを発行した会社はどうなるか。●
(1)これを取得した投資家がその会社の株式を空売りしたら、その会社が破たん/売買停止に
ならない限り無敵
★その理由
…株の空売りは、意に反して株価が上昇した場合の損失機会が無制限である。そのため
どこかで損失をヘッジしたいところである。CBは株の購入権であるから、CBを買って現物を 売れば損失はヘッジできるが、株価が目論見通り下落した場合には、CBは償還まで持たねば ならず、資金効率がよろしくない。
ところがMSCBを持った投資家が空売りをかけると、株価上昇時の損失がヘッジできるだけで
なく、株価下落時には転換価額が下がるからCBを償還まで持っている必要がない。 しかも!! 転換価額が下がるということは空売りできる限度額がさらにアップするということである。
転換価額1,000円、額面1百万円のMSCBは、発行当初は1,000株の売りをヘッジすることが
できるが、株価がもし500円に下がったとしたら潜在株数が2,000株に増え、もう1,000株空売り することができる。さらに株価が250円に下(以下同様)。
(2)従って発行会社の株価は例外なく加速度を付けて下落する。実例
実際には、そういった売り手と買い手のバトルが起こることはない。売り手(=MSCBの社債
権者)はある意味発行会社とグルであるから、そんな会社の株を数億円出して買い支える者な どいない。MSCBを出したところで勝負はついているのである。 株価は数ヶ月の間に数十分の一に下落する。
「投資家」はMSCBを転換し、空売りした株を現在の時価で買い戻して利益を確定させる。
既存の投資家の手には、100分の一程度にdwarf(英語:いきなり小さくされてしまうの意) された株式が残る。
発行会社はモラルを捨てた見返りに返さなくていい現金を手にする。
そして、禁断の河を越えた発行会社は、
何度でもそれを繰り返す。
注:店頭銘柄のように空売りできない場合も、借株を売れば同様の結果になるらしい。
●あとがき●
「MSCB」という単語は和製英語だという説がある。実際、執筆者がgoogle、yahoo!等の検索
エンジンを使って検索したが、有効なページを見つけることができなかった。 だいたい、特定の関係者だけにほぼノーリスクの収益機会を与え、一般株主の財産を収奪 してしまうようなアンフェアな商品が、英国や米国のようなファイナンスの先進国で許されるとは 思えない。
そういうわけで当会は、大証や東証は即刻MSCBの発行を禁止すべきだと考えている。
米国のベンチャー企業で発行される種類株式の中には「full-ratchet」といって、発行会社が
低廉な発行価額で第三者割当増資を行った場合に、転換価額がいきなりその価額と同一にな るよう調整されるという方式のものがあるそうだが、それは発行会社が不当な有利発行を行っ た場合に備える守備的な手段であり、MSCBとは意味がぜんぜん違う。
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